■安藤忠雄の遠めがね虫めがね
同潤会 建て替え後も温かさを 朝日新聞2002年04月27日
東京・表参道の同潤会青山アパートを初めて目にしたのは、20代のときです。ケヤキ並木と一体となって続く美しい街並みに、非常な感動を覚えました。都市に集まって住むという主題に真剣に取り組んだ、その志の高さに打たれたのだと思います。
現在、その建て替え計画に建築家としてかかわっています。住居と商業施設からなる都市複合施設とするものですが、これが随分長いことかかっています。計画の方針を定める議論に、実際建てるのに要する以上の時間が費やされるのです。
古い建物をいかにすべきか、という問題も議論の一つにありました。このアパートは日本近代の生活文化を考える上で重要な意味を持つものである、地域の人々にとっては原風景の一つというべき大切な存在です。多くの人々がその保存を望んでいます。が、一方で建物はすでに機能不全なほど老朽化していますから、建て替えは急務です。
無論、できるものなら残したい。古い建物の保存・再生は、30年鑑引きずってきた私の建築の主題の一つです。人々のよりどころとなる都市の記憶は、建築の用が済んだからといって安易に失われてはならない。ただ、当事者の気持ちも無視できません。板ばさみになって、ずいぶん苦しみました。
結局、今回の計画では、再開発という性格上、現状のままでの保存はやはり困難でした。ただ、建物の高さを低く抑え、ケヤキ並木と一体となるようなヒューマンスケール感覚を建築で受け継ぐことは可能です。建物は新しくなっても、あの表参道の温かい雰囲気は、必ず残していくつもりです。
(建築家・東大教授)