■曲折30年、解体へ 表参道の顔・同潤会アパート 東京・渋谷
朝日新聞2002年02月18日 夕刊 019ページ 1社会 写1108字

 東京・表参道の顔として親しまれてきた「同潤会青山アパート」が、75年の歴史に幕を下ろすことになった。

 老朽化に伴う建て替え話が持ち上がって30年余。再開発計画案がようやくまとまり、 行政から事実上のゴーサインも出た。 街の雰囲気を作ってきたツタの絡まる建物群は来年度に解体される。商業施設と住居が一体となった大型ビルに生まれ変わるが、名残を惜しむ声は根強い。

 15日に開かれた渋谷区の都市計画審議会で、建て替えプランの概要が了承された。 この春にも市街地再開発組合が発足する。 新しい建物の設計は建築家の安藤忠雄氏が担当する。 地上5階(地下5階)建てで、高さは24メートルと今のアパート群の約2倍になる。 3万平方メートルを超す床面積のうち、8割を店舗部分や200台分の地下駐車場が占める。

 建て替え構想は68年ごろから幾度も浮上した。だが住民の意見の対立やバブルの崩壊で難航。 98年に森ビル(本社・東京都港区)が事業の中心にすわり、 都が底地の払い下げに踏み切ったことで歯車が回り始めた。

  青山アパートは関東大震災後の住宅復興を目的に27年に建てられた。 10棟の建物は当時としては珍しい鉄筋コンクリート造り。 地震や火災に強い集合住宅の先駆けになり、戦時中の空襲にも耐えた。 今も人が住んでいるのは20戸ほど。残りの約100戸は空き室だが、15戸にブティックや雑貨店が入っている。 表参道の中央に接し、ツタの生い茂る古い壁や出窓がおしゃれな町並みにとけ込み、 約10年前ごろからテレビのロケ地にも使われ、名物的な存在になっている。

 だが、一部屋の面積は平均約40平方メートルと狭く、浴槽や洗濯機を置く場所はない。 水道管は傷み、雨漏りも絶えない。30年余り暮らしている川上道夫さん(71)は 「実際に住んでみると、年寄りには本当にきつい」と、建て替えに期待を寄せる。

 一方で、表参道を行き交う若者からは異論も出ている。 保存を呼びかけるインターネットのホームページには20、30代を中心に約150の意見が寄せられた。 「壊さないで。大きなビルはどこにでもある」「ほっとする建物。何とか残して」 中心メンバーのアニメーター細井真木さん(35)は 「何げなく前を歩いていても、古くて味があるアパート群に愛着を感じている人は多いはず」と話す。

 建築家からも再考を求める声が上がっている。日本建築学会はおととしの夏、都知事に要望書を提出した。 建物の保存に詳しい鈴木博之東大教授は青山アパートを 「近代都市東京のシンボル的な存在であり、理想の都市生活を模索した建物でもあった」と指摘する。

 だが文化財などに指定されていないため、保存のための負担は権利者にそのままのしかかる。 鈴木教授は「当事者の負担を軽くする仕組みづくりを真剣に考えるべきだ。 このままでは、 古い時代の建物が数多く残る欧米と20世紀の建物すら残せない日本との差は開く一方だ」と問題提起している。