■『建築文化』の記事より (JIA 関東甲信越支部 保存問題委員会安達治雄)
表参道の一街区を形成し、その街並みを特徴づけ、景観を潤してきた「同潤会青山アパートメント」。・・・この建築群こそは、近代化プロセスの生きた遺産として、人々が都市の歴史的奥行きを肌で親密に感得することが出来、またその佇まいが街並みの主たるイメージを構成しているという、我が国の大都会にあってはまったく稀有の例となっている。建物に染み込んだ時間の堆積と、他方、入居テナントの小粋な〜あるいはキッチュな〜表情との、そのオシャレな対比は、現代の息吹そのものの最も良質な部分とさえ言えよう。
昨年11月にこの青山アパートの建替え計画が公になってから、「あれを開発して何がいいのか、あれぐらい残さなくてなにが東京らしさなのか!*」といった趣旨の意見をたくさん見聞きしてきた(*回覧メールより引用)。インターネット上にも、この青山アパートの保存を訴えるページがいくつか出来ている(**)。
これらはつまり「都市景観や街のアイデンティティは市民の共有物だ」という意識の表明であり、またそうした共有の観点が今日の日本の都市の姿・成り立ちにあまりにも欠落していることへの抗議であろう。
・・街並みのアイデンティティは何によって作られるものなのか?・・・そしてその街並みが市民に広く共有されるとはどういうことなのか?・・・その共有された価値、つまり時間が育んだ文化を都市の中に持続させるシステムを、我が国はどの程度用意しているのか?・・・同潤会青山アパートメントの建替え計画が我々に問い掛けるもの、その「問題の構図」は、ただ「建築史的価値が高いから保存せよ」といった単純なものでないことは歴然としている。
このような視点を持ちながら(社)日本建築家協会 保存問題委員会は「同潤会青山アパートメント保存についての要望書」を所有者・知事・区長に提出した。趣旨は「そのアイデンティティの現地保存は技術的に可能性があると考えられ、そのためにできるだけ多くの英知を結集しよう」というものでる。
その行間には次のような考えが込められているので、以下にご紹介する。
1.民間の所有者である以上あくまで仮定ではあるが、もし、権利上・経済上の諸制約が存在しないとすれば、この青山アパートは市民の愛着の対象として現地保存されるべきである。
2.今日の技術水準をもって、この建築群を物理的に蘇生・保存できないはずもない。
3.すると問題の要は、長期にわたり生活上の不便を耐えて来られた居住者の方々を初めとする当事者各位の私的権利の保全・発展と、他方、たとえ私有物から構成されても街並みは市民共有の文化的財産であるという公共性との、その両者の調停がいかに可能か、具体的な手法はどのようなものがあるか、また、そのコストを社会がどのように負担し得るか、という点であろう。
4.もし仮に、街並みとして かくも広くかつ永く好感されて来た青山アパートのような例にてさえ、社会の側による保存の経済的負担はあり得ないということになると、我が国の都市全般につき「時間による醸成」を社会は負担できないという理屈になってしまい、文化の総体的表現であるべきはずの街並みは
ひたすら私権の効率的発露として 皮相なものになってしまう。
5.そして最大の懸念は、この計画が当事者と近隣との間のみで議論されるにとどまることである。それでは「街並みの市民的共有」という今日自明の社会的課題に到達できまい。こうした我が国のこれまでの議論欠如の風土を私たち一人一人が乗り越える努力を重ねる必要があろう。
・・・同潤会青山アパート建替え問題こそは、世代を超えて、身近な都市空間が持つべき文化的価値を考える絶好の機会であることは、いくら強調しても
し過ぎということはないと思われる。
安達治雄(JIA 関東甲信越支部 保存問題委員会)