リレーインタビュー
   
1: 写真家・ハービー山口さん

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Hosoi: チョット話がそれますが、その話の中で、青山アパートの再開発の設計者が安藤 忠雄さんだということです。安藤さんがよく言われ ているのは、建築家として自然を建築の要素に取り入れていると言うことなんです が、隣の部屋に行くにも、一回外に出て、げたを履かなければならなかったりするの ですが、このようなことによって、いつでも四季を感じるとか、昔の京都の町家の要 素を現代建築に取り込んだと言われてまして、建築的にもきれいで、特に白黒で撮る と特に美しい。フォトジェニックな建築って言われていますよね。そういう安藤さん が、ある意味、こういう本当の自然を5感で感じられる要素を持った建築を壊して、 新しい建築に建替える担当者になっちゃってるということが…。

ハービー
: いやぁ、腕の見せ所じゃないですか?あれだけの限られた土地に。 明治村みたいな、もっと古い江戸村なんかの様にものすごい広い敷地に今から 150年ぐらい前の建物が建っている一つのテーマパークがあるんですけど、そこは、 あまりにも広いんで、あたかもその時代に行っちゃった様な、トリップしたような感 覚になりますが、1棟だけポコッと建っていたら…、どうなんでしょうね。 まぁでも、無いよりはマシでしょうけどね。

Hosoi: 時々、都会の真中に、新しいもの真中に旧いものがポッと残っているような、そういう 感じのスポットになるんでしょうかね。 ロンドンに10年いらして、その間1度もお帰えりにならなかったそうですけれども、 日本に帰ってきて、日本の街並みを見たり、街並みに住んでいる人々の顔を見たりし たとき、帰ったばっかりの頃はどうのように感じられましたか?

ハービー: 何か、日本人の顔がすごくマイルドだなぁと感じました。マイルドって言うは、 平和な顔をしているなぁと。それは僕も日本人であるわけなのですが、西洋人は目鼻 立ちがもっと整っているというか、シャープで、時にそれがすごく、完全無比で、妥 協を許さない怖い顔にもみえるんですよ。目が大きくて、鼻が高くて、必要以上に顔 がボアっと大きくなくって、日本だとそこが白人に言わせると何考えているか分から ない表情と見えるそうだけど、そこが僕には、すごく安心感を与えるんですけどね。 あと、黒い髪の毛が重たいなぁと。ま、今は皆染めているから、あんまり感じませんけれど、その当時髪を染めるのは一部の人だけだったから。髪の毛が黒いのは群衆 で見ると重たいなぁと思いました。

Hosoi: 同潤会のあのような空間に特別な愛着を感じるということは、イギリスにずっと 住んでいらしたことと何か影響があったと思いますか?

ハービー: アメリカでもそうだけど、イギリスは旧い文化にすごく価値を見いだしている国 ですよね。古い文化を持っていれば持っているほどそれは美徳なんですね。 中国人とか日本人とかは黄色人種だと馬鹿にされる反面、自分たちよりは旧い文化を 持っていると言うことが、白人には、すごく一目置く材料なんですよ。 ヨーロッパでも旧い町は石畳はそのまま残してとか、このビル建て直す時も、外壁は 残して、中だけ変えようとか、旧いまま残すことの最善の努力をはかっているわけで す。 ニューヨークでもイギリスなんかから比べると全然歴史は浅いんですけど、旧い建物 は、外壁は残そうと、文化の重み、歴史の重みを残そうという意識がありま す。そういう中で10年過ごして、日本に帰ってきて、旧いものは何でもぶっ壊して近 代化して、経済効率をよくしよう、というの日本の現在のやり方には非常にギャップ を感じましたよね。

Hosoi: イギリスやニューヨークはどうでしょうか?

ハービー: イギリスやニューヨークだって、経済効率を考えますけれど同時に、旧い文化を 守ろうという気持ちもあります。

Hosoi: イギリスやアメリカで同潤会アパートに感じるような空間はありましたか。

ハービー: ありますよ、例えば、フランスだったら、ナントカ駅、国鉄の駅ですよ、日本で 言えば、JRの駅ですが、使われなくなって永いこと放置されていて、日本だったら、 まず更地にしちゃいますけど、次の大統領だったミッテランが、この建物を好きで、 鶴の一声で、この昔の駅を博物館にしてしまいましたね。 日本で言えば、あの赤レンガの東京駅ってところでしょうか。仮に汐留が東京駅の機 能になって、いらなくなっちゃったら、日本だったら、ぶっ壊してドーンとビルを建 てるでしょうけれど、それを森総理の一声で「大日本博物館」になったりする…、 まぁ、こういうことがフランスでは実際に起こるわけなんですけれど、日本ではまず 起こらないでしょう。

Nonnon: 継続するイメージを大切にするんですね。

ハービー: 旧い文化を持っていることが非常に美徳なんです。それが人間に必要だというが 分かっているんでじゃないですか。

Hosoi: ヨーロッパやアメリカの人は、若い人でも、そのような感覚をもってましたか?

ハービー: 持ってますよ。新しいものに憧れる、一方で旧いものへの安心感とかあるんじゃ ないですか。西洋では、アンティックなんて、アンティックマーケットなんて色々な ところであるでしょ。あれだって、旧いものを大事に使う、50年代やそれ以前の様 式ってものを楽しみながら今の生活に取り入れる、そういう趣味があるんじゃないで すか。

Hosoi: 新しいムーブメントが起こるところでもあるのに旧いものも残っているんです ね。

ハービー: その両極端があるのが面白いんですよ、ヨーロッパはね。 その片方しかなかったらつまらないんですよ。 イタリアだって、街を歩けば遺跡だらけでしょ。 だけどイタリアの家具とか、照明器具とか、ものすごく斬新ですよね。ミラノとか 行ってもそうです。新旧、両方持っているから良いんですよ。 一方だけではまずいんですよ。

Nonnon: 日本だって、誇れるべき歴史って、あると思うんですが…。

ハービー: ありますよね。

Nonnon: それをもっと自覚したほうが良いですね。

ハービー: 明治維新で、西洋に追いつけ、追い越せってマネばかりして、鹿鳴館で夜な夜な パーティーとか、西洋のマネしていたと。極端ないいかたをすると滑稽だけど、それが 今だに続いているのかもしれません。

Nonnon:マインドとしてはそうなのかもしれません。

ハービー: 西洋のブランド物、ヴィトンとか、プラダとか、を買うことによって、自分が満 足する、身に付けることで安心するって言うのは他の人が持っているものを自分が 持っていたいということもあるけれど、西洋で一流とされているものを取りあえず手 に入れることで「今」に生きている気持ちがするんじゃないかな。

Hara: そういうところに、どこかに西洋が上で、日本が下って言う意識があるのしょうかね。

ハービー: 人種偏見て言うものは世界の中からかなり無くなっているとは思うけれど、で も、偏見に出会う人は出会うし、感じる人は、感じますね。その時、西洋に追いつい て行くことで安心するという感覚があるかも知れませんね。 日本の良さって言うものをかなぐり捨てちゃって、西洋の水準に達することが安心と か快感とか達成感とかに繋がる、そんなところがあるのではないでしょうか。
Nonnon: さっきもお話がありましたが、ルイ・ヴィトンとか向こうでは歴史があるブラン ドで代々引き継いでいくような高級ブランドでも、日本だと、何かそれがとても表面 的に持ってこられて、それが一時的なファッションとして使われてしまうというのは とても本来の形とは違って残念だと思うのですが、

ハービー: ホントは一部の階級の人たちだけが身に付けるようなものなんですよね。それが 日本では、チョトお金を貯めて、それだけを買うようですね。それで、売上げの1/3 は日本人が買ってるんでしょ?

Nonnon: そうですね。最大のマーケットは日本だそうですね。 ただ、そのブランドの持つ歴史性とは関係なく日本人の女性達が身に付けるって言う のは、外国文化の表層だけを取り入れている所を象徴していると思います。

ハービー: ああ。そうですね。

Hosoi: ロンドンから帰ってきたばっかりの頃は、日本人の顔は柔和だと見えたそうです が、 それから永く時間がたって、今お話ししたように日本人の文化に関して不思議だなと 思ったこともあって、日本とか、東京とかに対する印象は変わりましたか?

ハービー: (日本人は)だんだん精気がなくなっていくような気がします。 僕が初めて日本に帰ったのは80年の初頭ですけれど、ちょうど日本の若者がちょうど 開放されて何か自由な新しいことが出来るぞ、と言うスゴク良いエネルギーがあった んですね。若者の間に。それがだんだん色あせてきて、精気がなくなって、今は柔和 な顔だと思っていたのが何となく余裕の無い無表情、自分の感情をかみ殺した群衆に 見えます。

Hosoi: イギリスや向こうの人の方が表情がありますか?

ハービー: ありますね。 日本も田舎行けば違うのでしょうけれど都会だと、モチロン、ロンドンでも、通 勤の電車の中なんかでは、何か、かったるいなぁって顔をしてブスーとしている人は 勿論いますけどね。それでももう少し人間ぽい。

Nonnon: もしかしたら、それを、都市とか街並みに普遍化してもいいのかも知れません ね。 ハ:パリだってラッシュアワーにはブスーとしたサラリーマンでいっぱいになるだろ うけど、仕事を終えた6時以降、テムズ川を散策したり、レストランへ行ったり、カ フェへ行ってのんびりしたりとか、まだ、人間性を取り戻す空間と社会的な背景があ ると思うんですよ。それが日本には無いような気がします。

Hosoi: 変なことを聞きますが、仕事が終わって、酒をのみに行って酔っぱらっているサ ラリーマンや若い人たちと言うのは、被写体としてはどう思いますか?

ハービー: 暗い意味での被写体ですね。 憂さばらしに行くわけだから…。イギリスにもパブって言うのはあるけれど、また、 アメリカにも黒人達が毎日綿(コットン)摘みのつらい作業をして、週末のみにい く、黒人だけのクラブって言うのがあったんですが、それはひとつの文化としてあっ て、でも、日本人が居酒屋で、酒をのんで、歌って〜、ていうは、僕は余り被写体と しては魅力を感じませんね。外人の人に見せたら、それはオモシロイとは思うんで しょうが、座布団ひいてズラーと並んで、最近あんまりやらないようだけれど、はち まきまいてわ〜っと…。(笑)

Hosoi: 日本人のアフター5の写真って、そう言えば、外人のカメラマンが撮った写真で 見るくらいですね。 フランスやヨーロッパの人がアフター5に表情を取り戻せる文化があるということは どういうことだと思いますか?

ハービー: それは、例えば、日本では、文化というとまず、若い人に受けようとするものが あまりにも多い。40過ぎた人が、しゃれて飲みに行く、または観に行く、芝居やコン サートが無いとは言わないけれど少ない。場所も少ない。また、街としてはやってい るかどうかは、巣鴨は別として、若者の間で、はやっているかどうかですね。ホント に50歳のカップルにとっては、「ここは若者ばっかりで、私たち浮いちゃうわね。」 みたいなそんなところばっかりで、大人が伸び伸びできるところがないですね。金も うけのためには10代をはじめとする若者を取り入れるっていうものがあるかぎり、中 年相手の商売は余り成立しないって言うものがあるんじゃないですか。

Hosoi: (ハービーさんは)イギリスにいたときは、若くて、パンクムーブメントや、と んがったものに浸っていたわけじゃないですか、そこにいたときのハービーさんに とってのイギリスの印象はどういうものでしたか?

ハービー: つまり、新しいものはどんどん出てくる、旧いものは旧いもので誇りをもって存 在する、両者が新しいものも旧いものも認めている。だから、同じストリートをモヒ カンのパンクの青年や山高帽と傘を持った伝統的なサラリーマンが歩いている。両方 とも自分を主張して。その二面性が恐ろしくおもしろいんです。

Do+一同: 貴重なお話を頂きましてありがとうございました。

(インタビュー・2001年2月8日、中目黒のハービー山口さんの自宅にて)

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